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万朶会 繋げる読書会

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第八回 モーム 『月と六ペンス』

開催日時:2010/09/17 1403~1610 場所:Moulin de la Galette
参加者:Y,M,F,K 
文責:Y

やあ。今回も僕です。

今度の課題図書は、世界の十大小説の選者・モームです。イギリスの大衆文学の中で高い評価を受けた本書『月と六ペンス』、意外と中核まで話がもつれ込みました。各々の思考技量が成長してきたのをひしひしと感じます。

さて、いきましょうか。



最初の命題にした種文は、p280「女は一日じゅう愛していられるが、男はときどきしか愛せない」という文でした。この本は画家・ゴーギャンをモデルに脚色して書かれた物語ですが、ストリックランドの恋愛観は思い切り極端な方向に描かれています。

彼は女を「もの」にできる自信と外見を持ち合わせながらも、終盤まではその欲を徹底的に放棄して絵画に没頭しようとします。40でほぼ何の予備知識もなかった証券会社員が画家を目指すのですから、家族をはじめ種々の物や欲をことごとくかなぐり捨てようとします。それでも絵を描くという根本的で不可解な欲求でさえ打ち負かしてしまう欲として描写されていたのが、性欲だったのです。

Fが引っ張ってきたマズローの五大欲求によると、性欲はピラミッドの一番下である生理的欲求、絵を描くという欲は頂点の自己実現の欲求に属します。上層はその下層の欲求が満たされていないと満たすことのできないものとして仮定されているため、初期のストリックランドは中間層をすり抜けて一番上と下の欲求だけで生きていたことになります。すげーな、おい。
結局、最終的に彼はタヒチで全ての要素を備えた状態で最高の作品を仕上げるわけですが。

ゴーギャンの絵画というものは、単に綺麗な作品であるわけではありません。しかし、人を惹きつける何らかの要素があるのも事実。彼の作品は絵画の持つ単なる美麗さではなく、その絵画を仕上げるその筆致、息遣いや拍動を想起させるからこそ、価値がついたのではないでしょうか。



さて、次はp94「泳ぎ方など問題にならんのだ」のところの一節。ストリックランドにとって絵画を描くことは人生を為すために不可避の行為だったようです。

ここで、「もし人生において心からやりたいことが天から降ってきたら、他のものをことごとく捨てることができるか」という問が出たところ、
まずF・Yは「捨てる」と即答。ストリックランドに似て、少々自意識過剰なのやもしれません。
Mは「捨てない」と。現実的な答えです。普通の人はこれを選ぶのでは。
中間的なのはKで、「捨てたいが本当に捨てられるか分からん」という答え。うーむ。難しい。

ことごとくほとんどを捨て、ひとつのことのために生きるのは、死をはじめとする様々な恐れと戦わねばなりません。それらと相対する自信があるか、生き様をシミュレートできるかが、選択の要因として絡まってくるように思います。



お次はp137のダーク・ブランチ夫妻の会話。明らかに三流の絵を婦人は最初に見たときから素晴らしいと思っていたという。ストルーブの唇が震えたのはなぜでしょう。

彼は美術品に関して的確な鑑識眼をもちながら、自分の作品に関しては目を瞑っていました。自分の絵の価値に見当がついていたけれど、彼は幸せなのでした。妻がいたからこそ。
しかしその妻に明らかな同情を投げかけられ、自分の作品の評価が丸裸になってしまったことにショックを受けたのでは、という解釈に落ち着きました。

最後にp51「平凡な喜びには、どこか恐ろしいところがあるようにさえ、僕には感じられたぐらいだ」という文。

平凡であるがゆえの幸せには、どこに恐ろしさが含まれているのでしょう。
平凡であるということは、単調に日々が過ぎてゆくということ。ルーティンを繰り返す中で、段々と生きている実感というものを失うように感じる人は少なくないのでは。しかし激動の中に身をおくと、自身を破滅させることもあるかもしれない。平凡から外れる覚悟を、それぞれはどれほど持っているのでしょうかね。

この問題は、最終的には「人生を如何に過ごすべきか」という、至極根源的な命題にたどり着きます。危険でも己の欲求を貫き通すのか、自らの生をまっとうに過ごすのか。人によって違うはずです。


結局、「あんまり溜めすぎちゃダメよ、でもレ○プはいかん」という結論に相成りました。ちゃんちゃん。



当初はこんなに話が続くとは思っても見なかったのです。この本は取り立てて素晴らしいとはあまり思えなかったので。でも論点を拾い、そこから話を広げられるようになってきたのは、読書会を続けてきた中での収穫、といったところでしょうか。
さて、次回は久々の日本文学。ノーベル文学賞や芥川賞を獲った彼の作品の中から、『見る前に跳べ』を選出です。前日までには読んでおこうね!
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